2024/08/11 14:44
今回のコラムは私が服づくりにおいて大切にしていることのひとつ、生地選びについての話です。
服を作る上で、生地はアイテムの個性を左右する大きな要素。たとえば、前開きのロングワンピースのパターンがあるとして、それを透け感のある薄くて爽やかな色彩のコットン生地で作れば、夏に足元はサンダルで海に行きたくなるようなアイテムになります。一方で、ボトムが作れるような少し厚めの生地、それもブラックのリネンなどを使えば秋~初冬に羽織りとしても着られるアイテムになるのです。
使う生地によって着用が想定されるシーンが異なるため、デザインのディテールも変わってきます。ワンピースなら前の開く部分がなるべく目立たないようにノーステッチで軽く仕上げようとか、アウターなら厚めに仕立てて、切り替えた部分にステッチをしっかり効かせるなど(デザインによっては糸を太番にして、ステッチを強調することもあるかもしれません)。リネンを使ったアイテムなら、洗いを重ねるごとにステッチのツレや織りが揉み込まれて、風合いが変化したとこともかっこいいだろうなと想像します。
ここで挙げたものはごく一例ですが、このように生地選びはデザインを考える上で非常に重要なもの。加えて、肌触りやお手入れのしやすさといった「衣服として快適かどうか」というポイントも考慮しなくてはなりません。
気付けば、私が服に携わる仕事を始めて15年以上になりました。自分とは比べ物にならないくらい知識や経験が深い方々がたくさんいるので生地に関して語るのは躊躇してしまうのですが、見る目はかなり肥えたのではないかと思います。過去にアパレルメーカーに勤務していた頃から、そしてsuieをはじめてからは国内外のさまざまな生地に触れる機会が増えて、個々の特性だけでなく、アイテムに仕上がった時のイメージの精度は昔よりは上がったはずです。
だからこそ、グッと心を掴まれる生地に出会えることは貴重で幸せなこと。アイテムによっては生地との出会いが先にあり、それを魅力的に活かせるアイテムという流れでデザインをしていくことも。目が肥えてきたのは良いことですが、そういった心掴まれる生地というのは時間や手間をかけて作られているものが多いため、当然ですが価格もそれなりになります。おのずとそれがアイテムの販売価格にも反映されるので、理想と現実との間でバランスに悩むことも多々あるのが本当のところです。
海外で大量生産された生地の中にも良いものはあるし、どちらかが良くて悪いというわけではありません。ですが、そういうこだわりを持って手間暇かけてものづくりをしている産地にお客様から受け取ったお金が流れて欲しいと思う気持ちがあるので、出来上がったアイテムの価値を上げられるよう私自身のスキルをもっと磨いていきながら、今後もこの課題に向き合っていきたいです。