2024/05/23 08:20

デザイナーの翠です。今回のコラムは2020年の秋冬コレクションで発表して以来、性別や年代を問わずに人気を得ている「Volendam pants(フォーレンダムパンツ)」についてご紹介したいと思います。



Frank Scholten, Public domain, via Wikimedia Commons


新作に向けて世界の民族衣装をリサーチしていた時に、ある老父達の古い白黒写真が目に止まりました。写真に写る彼らはかなり着古した、それでいて特異なバランスとシルエットの服に身を包んでいたのですが、調べてみるとそれがオランダの漁村・フォーレンダムの男性の民族衣装ということがわかりました。私からすれば個性的なスタイルでも、彼らは当たり前の日常としてその民族衣装を着こなしている。服だけではなく、そんな人々の様子にも魅力を感じました。


オランダには地域によってさまざまな民族衣装があることで知られますが、フォーレンダムの男性は極太のパンツにダブルのジャケット、首元にスカーフを巻いて頭には帽子、足元は木靴というスタイルで、ジャケットをパンツにインして着ている人も多いよう。


その中でも、私が特に興味を惹かれたのがインパクトのある太いパンツ。前中心はフラット、両サイドにたっぷり入ったギャザー(タック)、左右に大きなボタンが付いたベルト、裾に向かって少しすぼまったコクーンシルエットという特徴的なデザインを一目見て、思わず再現してみたいという思いに駆られたのです。オリジナルを手に取って見たことはないのですが、きっと分厚いウールで仕立てた、ごわっとした重みのある一本なんだろうなと想像します。



民族衣装の中でも祭事など特別な場合に着飾る為の”とっておき”の一着も魅力的ですが、日常の生活に溶け込んでいるものはまた違った魅力があるように感じます。素材やデザインからその土地や日々の生活が読み取れるからです。このVolendam pantsもそういった日常の一着としての魅力を、現代の生活に溶け込む形にアレンジしたいと思いました。


suieではオリジナルのシルエットとバランス感を参考にしながら、日常着として着心地良く、現代の服とコーディネートしやすいようにアレンジ。サイドのギャザー部分はゴム仕様でフリーサイズに。大きなボタンをバックルに変えて、両サイドでサイズ調整ができるようにしています。 また、前だけでなく後中心もフラットにしたことでワイドシルエットでもウエスト周りがスッキリと見え、トップスをインしたり、ショート丈の上着とのコーディネートもしやすくなっています。  



生地には綿麻の細かい先染めヘリンボン織りを使用。「先染め」というのは先に染めてある糸を使って織り上げている生地で、引きでは単色でも経糸と緯糸の色の違いが微妙にあることで生地に奥行きが感じられ、幅広い色味のアイテムとも合わせやすいのが持ち味です。また、肌触りの良い薄い綿生地を裏地に使っています。夏風は通気性が良く、冬は下に重ね履きができるのでオールシーズン着用できるのもポイント。


定番のネイビー以外に、これまで生成りやブラックを作ったのですが色違いでお持ちのいただいている方も多く、suieのシグネチャーアイテムのひとつとなりました。デザインした私自身も普段から着ている馴染みの一着です。