2023/11/16 12:00

こんにちは。デザイナーの翠です。


第一回目のコラムでは、suieの立ち上げ当初からあるアイテムで、ブランドを象徴する一着でもある「山岳民族ドレス」の背景についてお話ししようと思います。




今から6年程前、私はタイ、ベトナムの山岳地帯に暮らすある少数民族の村を訪れたのですが、その時、そこで暮らす女性たちが着ていた短いトップスが目に止まりました。そして、タイ、ベトナム、ラオスの北部には多くの少数民族が住んでいて、民族衣装のデザインや色の特徴、装飾品などがそれぞれ違っているということを知り、とても興味を惹かれたのです。私が訪れた村で出会った民族衣装は過剰とも言える色使いの装飾やデザインが特徴的で、それを着る村人たちの姿が魅力に溢れていたことを覚えています。


当時はまだブランドの立ち上げはおろか、自分の具体的な活動の計画もない頃でした。日常では着る機会がなさそうなこの民族衣装を購入してどうするのだろうと思いつつも、その魅力に完全に心を掴まれてしまい、たくさんある中からなんとか候補を絞り込んで限られた予算から費用を捻出し、その一着を譲ってもらったのです。


今考えれば、その時の経験がsuieの根となるコンセプトに繋がっているのだと思います。民族衣装の格好良さをただ眺めるだけではなく、自分が現地で感じた、それを着てその地に暮らす彼らの魅力までも表現したいという気持ちが、ブランドの原動力になっている気がします。




彼らとは異なる環境、文化に暮らす私たちは、そもそも民族衣装の何に対して格好良さを感じているのか-帰国後、現地で購入した衣装をまずはそのままパターンに起こしてみたのですが、それは今まで見たこともない形状をしていました。着物のように肩の切替がない、見頃が一枚でできている、ウエストの切替が大胆なカーブを描いている、物は立体的なのにパターンを並べていくと最終的にあまり生地の無駄がない等々、自分にとって新鮮な形状や仕様だったのです。


そもそも、彼らはパターンを引かずに服を仕立てているのだと思います。大抵、民族衣装はまず着る人がいて、その人の体型に合わせて作るいわばオーダーメイドのようなもの。その都度サイズを合わせながら作り、縫いながら辻褄を合わせているので、一般的な現代の服作りを学んできた私からはツッコミたくなるような箇所も度々あります。そして、その「えっ、そんなのありなんだ⁉︎」と思いたくなる瞬間が民族・伝統衣装から学ぶ喜びのひとつであり良くも悪くも、自分が無意識のうちに遵守していた常識を打ち砕いてくれるのです。



旅から持ち帰った一着を元に着心地や日常生活での動きやすさ、コーディネートを考慮してアレンジし、生地を選びました。一番大切にしたのは、着用した際の着姿が美しいこと。このドレスはその独特なパターンで締め付けなくても後姿がゆるやかな曲線を描き、年代を問わず着られる大人の魅力と、女性らしさが感じられるアイテムになったと思っています。オリジナルのパターンと比較するとかなり変わりましたが、私が現地で感じたあの格好良さを、私が生きる日常の中で装いたいと考えた末に完成したのが山岳民族ドレスです。


suieではこれからも民族衣装をそのままトレースするのではなく、そこから読み取る彼らの歴史や生活様式から学び、現代の自分達なりの魅力に昇華していけたらと思っています。



おまけの話:村で目の当たりにした「生地の成り立ち」

村までの道をトレッキングしながら案内してくれた民族の女性たちは、山を案内しながら(!)肩から下げている麻の繊維を結んで、長い一本の糸にしていました。なんとマルチタスクなのでしょう。


その後、糸にした麻を手織りして藍染めしていくのですが、山の道中にはその原料の麻や藍が自生していたり、村の家の外に置かれた藍を発酵させた樽の横で手を真っ青にしながら染めている人がいたりして、「本当にここで一から作っているんだ」という感動がありました。


普段はデザインありきで、どんな素材の生地にしようかと選択を持つことが当たり前すぎて、高山に暮らすこの土地で育つ素材、色だから麻の藍染めなんだということに深く納得し、その事実に驚きました。